Dr.なごみの玉手箱

医師です。内科の専門医をしています。勤務医の仕事の傍ら、医師の日常の暴露や、医療ニュースのかみ砕いた解説をお届けします。

コロナウイルスワクチンの副作用?!  ワクチン接種後の女性が死亡

「ワクチン接種の60代女性死亡 新型コロナ、因果関係は不明 厚労省」 時事通信社

https://news.yahoo.co.jp/articles/caef863fdceeb41ce49f1386a5c3276642eefaee

 

ついにきたな。そんな印象のこのニュース。皆さんはどのように受け止められたでしょうか。

「そんなのワクチンとは関係ないでしょ?」

「やっぱりワクチンは怖い!副作用がどうかわからないから、私は打ちたくない!」

「関係あるかないかわからないけど、もうちょっと情報がはっきりするまでは待ちたいな・・・」

 

色々な受け止め方があったかと思います。そのどの意見も間違っているわけではありませんし、現時点では詳細が報道以上のことは分からないのでなんともいえないのですが、少なくとも現時点ではこの件については冷静に受け止める必要があると思っています。今のところ私が心配していたほどは大きなパニックにはなっていないようには見えますが、今後ワイドショーなどで煽動的に報道されていくとまた少し風向きが変わってくるかもしれません。

 

なんとなくここまでの書き方で、私がこの死亡女性をワクチンのせいではないと感じていることが伝わっているかもしれませんが、(それはその通りなのですが)、私はこのニュースをもってワクチン接種に慎重になる方々を否定したいわけではありません。

ただ、医療(ワクチン含む)による副作用ってなんだい?っていうとっても基本的なことを、一度説明しておきたいと思います。少し長くなりますが、ご容赦ください。

 

実は、このことは医師(医療者)であってもよく理解していない人が多いです。今回のような、「ワクチン接種とくも膜下出血」というようなあまりにも関係性がかけ離れたものに関しては、さすがに医療者だと感覚的に「おそらく関係ないだろう」と理解している方がほとんどだと思われるのですが、ひとたびこれが別の薬剤になったり、少し違う事象になったりすると、途端に理解ができなくなる人が増えてきます。

しかし中には一般人(医療者以外)でも非常に的確に理解されている方もいるようです。勝手に引用してしまって申し訳ないのですが、2chの元管理人のひろゆき氏は、以前ワクチンの副作用について、

 

ひろゆき氏は米国でワクチン接種後の死亡率が0・003%あるという報道を受け「日本で水を飲んだ人は、年間130万人ほど亡くなります。アメリカで新型コロナワクチンを接種した人は3300万人」とデータを列挙。 その上で「寿命や病気などで死ぬ人が居るのは当たり前なのに、ワクチンが死因と誤解させる伝え方は良くないです。ワクチン接種後に死者がゼロだったら、それはワクチンではなく、不老不死の薬です」と過剰にリスクを報道する姿勢に疑問を呈した。」

https://news.yahoo.co.jp/articles/9392eebca626e36b7b5e8b7c86facc3df294851a

 

との発言されていたとのこと。これは、医師である私にとってはあまりに当たり前の内容であると同時に、医療人でない一般の方がここまで的確にこの副作用について理解されているのは非常に頭の良い方なのだなと感じました。(ひろゆき氏のことは他にはよく存じ上げておりませんので、あくまでこの発言についてということですが)。

 

ひろゆき氏は、「水を飲んでいる日本人は年に130万人亡くなる」「ワクチン接種後の死者がいなかったら不老不死の薬である」という皮肉(冗談)でこの過剰報道に疑問を呈しているわけですが、一部にはこの皮肉が理解できずに、「水を飲むと130万人死ぬって、日本の水は健康に悪いの?」などと本当に心配された方もいたとか。

 

皆さんは、このひろゆき氏の発言の意味が正確に理解できているでしょうか?

日本人の死亡者は、最近年間130万人くらいなのです。そして、日本人の中に1年間水を全く飲まない人はほとんどいませんよね。つまり、水を飲んだ人(1億2000万人?)の中で、130万人は毎年亡くなるということです。これは、水の副作用でしょうか?

違いますよね。水を飲もうが、飲むまいが、日本人は必ず130万人亡くなるわけです。

ワクチン接種も同じです。接種をしようが、しまいが、年間130万人の日本人は亡くなります。130万人を365日で割ると、3500人くらいになります。毎日平均3500人の方が亡くなっているわけで、この数字が、ワクチン接種によって明らかに増えたのかどうかが問題なのです。もしワクチン接種後にこの数字がゼロになるのであれば、それこそひろゆき氏の指摘するように、ワクチンはコロナウイルスどころかその他の原因の死亡までゼロにしてしまう夢の不老不死薬ということになります。

 

一般論として、ワクチンを注射してクモ膜下出血になるというのは、論理的な因果関係が推測しづらいですよね(機序が説明できない)。これまでの他のワクチン接種で同様の事象が報告されていないこと、またこのファイザー製のmRNAワクチンがすでに欧米で数千万人に接種されても同様の事象が報告されていないことからは、現時点では関連がなさそうだな、と推測してよいと思います。

 

但し、現時点ですぐに結論を出すことはできないとも思います。

たとえば、2020年には韓国でインフルエンザ予防接種後に死者が相次いだことがニュースになりました。

http://www.wowkorea.jp/news/Korea/2020/1114/10277287.html

 

一般的に、インフルエンザの予防接種は既に世界中で何億人もの実績がありますし、それで死亡事例が生じるということはほとんどありませんので、例えば1例2例予防接種後に死者がでたとしても、上の例と同じで、「インフルエンザ予防接種をして死亡するという因果関係は機序が説明しづらいし、経験上も関係ないだろう」と判断するのが普通だと思います。しかし短期間にそれが数十人、100人と出れば話が別です。何かこれまでと違う、何かまだ気が付いていない特別な原因が隠れていないかどうかを調査する必要があると思われます。

その点、(早いか遅いかは分かりませんが)、韓国政府は予防接種を一時中断して原因解析を行ったそうですから、詳細は分かりませんが適切に対応されたということでしょう。

調査の結果として、何か因果関係が証明される可能性もあるかもしれませんし、たまたまインフルエンザ予防接種をした人に死者が続いただけという場合もあり得ます。

サイコロだって、3回連続で1の目が出る確率はとても低いですが、0ではありません。でも、10回連続で1の目が出れば、その人は何かいかさまをしている可能性が高いですよね。この辺りは、医学的(というか統計学的)にどれくらいの確率であれば偶然とみなして、どれくらいの確率であれば現時点では原因は分からないけど何らかの因果関係があると判断しよう、というある程度の基準があります。専門的な話ですのでここでは割愛しますが、それに則って今回のケースでも適切に判断されるだろうと期待しております。

 

少し話がそれましたが、いずれにせよ、「ファイザー製のコロナウイルスワクチン接種」と、「くも膜下出血による死亡」は、現時点においては因果関係がなさそうと判断して大方間違いではないでしょう。

今後もワクチン接種後の副作用の報道は、接種者が増えれば増えるほどどんどん出てくるはずです。私たちは常に水を飲んだ日本人の死亡者数を頭の片隅に置きながら冷静に、それでいて、例えばくも膜下出血の患者が続出するなど、通常では考えられないような事態が生じた場合には慎重に調査をする、そのような冷静な姿勢が求められているといえます。

 

ちなみに、コロナ患者を診察することもある私は、もちろんワクチン接種を受けるつもりです。

長くなりましたので、今回のニュースとは別に、ぶっちゃけコロナウイルスのワクチンって接種したほうが良いの?という内容については別記事で改めて発信したいと思います。

 

                               なごみ