Dr.なごみの玉手箱

医師です。内科の専門医をしています。勤務医の仕事の傍ら、医師の日常の暴露や、医療ニュースのかみ砕いた解説をお届けします。

アナフィラキシー

なごみです。

 

新型コロナ ワクチン接種でアナフィラキシー 新たに女性9人 NHKニュース

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210309/k10012906741000.html

 

こんなニュースが飛び込んできました。先日ワクチンの記事を書いたばかりであれなのですがこの記事によると現在日本でワクチンを接種したのが10万7500人に対して、アナフィラキシー反応が出現したのが17人ということで、この数字はちょっと多いな、という印象です。

米国での報告が100万回あたり11.1例ですので、日本での6300人に1例の割合は、(ワクチンを避けるべきという意味ではなく)、数字の比較上は異様に高いといえます。

 

この件についてはいくつか慎重に考えなければいけないことがあります。

 

一つ目は、人種差ですね。

欧米人と日本人では、これまでにも同様の薬剤で異なる有害事象の発生率が報告されているものはいくつもありますので、こうした人種差がアナフィラキシー反応の発生率に関係しているという可能性があります。

 

もう一つ必ず検証しなければならないのは、アナフィラキシー反応の診断の確からしです。

言うまでもなく、アナフィラキシー反応はワクチン接種等におけるアレルギー反応のひとつであり、最も憂慮すべき副作用の一つです。

ただ、厳密にはアナフィラキシー反応とはただアレルギー反応がでたものをいうのではなく、アレルギー反応のプラスして、何らかの循環器/呼吸器系症状が出現したものをアナフィラキシーと診断します。

anaphylaxis-guideline.jp

 

現在、日本では医療者を含めてアナフィラキシー反応をはじめとする有害事象に非常に過敏になっていますので、アナフィラキシーに該当しないような軽微なアレルギー反応までもがアナフィラキシーと判定されていないかどうかは、検証する必要があると思います。

アナフィラキシーの診断は、アレルギーや救急の専門医、あるいは各科の経験ある優れた医師であればもちろん容易に簡単ですが、国民全体に大量に接種するような現状、そのような医師ばかりが接種に携わっているわけではなく、むしろ実際に接種に携わっているのはアナフィラキシーを診断したことのないような医師が大半と推測されます。

過剰に診断して、安全策で対応するのは現場レベルでは適切な対応と考えられますが、最終的な有害事象の統計としてはより慎重な対応が求められると思われます。

 

但し、先ほどの米国の報告では、アナフィラキシーに該当しない軽微なアレルギー反応も190万例あたり83例であり、これと比較しても日本のアナフィラキシー報告数は非常に多いことは記しておきます。

 

なお、アナフィラキシーに限らず、ワクチン接種は常にリスク/ベネフィットで接種の可否を決定する必要があります。

アナフィラキシーは命にかかわりうる有害事象ですが、適切に対処すれば治療可能な病態であり、実際に米国でもアナフィラキシーでの死亡例はありません。日本での現時点での6300人に1例の割合でのアナフィラキシーが、ワクチン接種のベネフィットと比較して高いか低いかについては、その他の有害事象の割合や、ワクチンによってもたらされる効果とのバランスをみて考慮すべきであり、現時点では大いに注意は必要だが、ベネフィットの方が大きく上回るだろうというのが、私の結論です。

 

なごみ